アロマテラピーを看護に取り入れる上での予備知識や活用方法

メディカルアロマの予備知識

不眠症やストレス解消、リラックス効果等以外でも、近年では認知症にも効果があると言われているアロマテラピーですが、看護師の行う看護業務にアロマテラピーを取り入れるにあたって、それぞれの患者様の症状や容態にあったオイルの種類、注意点等をここでは詳しく紹介していきたいと思います。
また、病状や疾病等、それぞれ異なる容態に合ったトラブル予防の知識等も紹介していきます。

メディカルアロマとは?

医療界では、西洋医学をベースにアロマテラピーや心理カウンセリングなどの、代替医療を組み合わせて活用する取り組みが始まっています。
アロマや心理カウンセリングを組み合わせて、現代社会にあう心と身体の新しいケア方法をメディカルアロマといいます。
近年の医療業界ではメディカルアロマを取り入れる医療機関も多く、メディカルアロマの資格や検定などあります。

メディカルアロマテラピーは、通常のサロン(アロマテラピーサロン、エステティックサロン)では禁忌とされる疾患・症状を抱えている患者に対してアロマテラピーを行います。
リスクや事故の可能性が高い為、患者の症状や疾病など十分に理解をして臨まなければなりません。

アロマで使用する代表的な28種類の精油の効果および、使用上の注意点について

ここでは、アロマテラピーで使用される代表的な精油のそれぞれの効果と、使用する上での注意点を表形式で挙げていきます。

名称主な産地主要成分効果使用上の
注意点
名称:アカマツヨーロッパ主な産地:フランス、スロベニア主要成分:α-ピネン 30~60%、β-ピネン 5~20%、リモネン5~30%、酢酸ボルニル 1~10%効果:抗アレルギー、うっ滞除去、抗炎症、抗ウィルス、抗菌、鎮痙攣、鎮痛、コーチゾン様使用上の注意点:特になし
名称:イランイラン主な産地:マダガスカル主要成分:リナロール 5~30%、酢酸ベジル 5~10%、パラクレゾールメチルエーテル 10%~20%効果:過呼吸、ホルモン、催淫、鎮痙攣、抗菌、抗うつ使用上の注意点:特になし
名称:ウィンターグリーン主な産地:カナダ、中国、インド主要成分:サリチル酸メチル 90~99%効果:鎮痛、抗炎症使用上の注意点:アスピリンアレルギーの方は使用を控える、妊産婦、乳幼児(6歳児未満)も使用を控える
名称:オレンジ・スウィート主な産地:イタリア、アメリカ、ブラジル主要成分:リモネン 95~98%効果:消化促進、鎮静、抗菌消毒、うっ滞除去使用上の注意点:光感作作用がある為、塗布後4~5時間は直射日光を避ける
名称:カモミール・ジャーマン主な産地:フランス、モロッコ、ユーゴスラビア主要成分:ビサボロールオキサイドA 10~50%、ビサボレンオキサイド 2~15%、カマズレン 2~10%、trans-B-ファネッセン 2~30%効果:抗アレルギー、抗ヒスタミン、抗炎症、通経使用上の注意点:通経作用を起こす場合があるので妊娠初期は芳香浴のみ
名称:カモミール・ローマン主な産地:フランス主要成分:アンゼリカ酸イソブチル 30~40%、アンゼリカ酸イソアミル 10~30%、ピノカルボン 5~15%効果:鎮痙攣、神経バランス回復、鎮静、抗炎症、通経使用上の注意点:通経作用を起こす場合があるので妊娠初期は芳香浴のみ
名称:クラリセージ主な産地:フランス、ロシア主要成分:酢酸リナリル 60~80%、リナロール 10~15%、スクラレオール 5%以下効果:エストロゲン様、分娩促進、鎮静、鎮痙攣使用上の注意点:分娩促進作用やエストロゲン様作用があるので妊娠初期には使用を控える
名称:グレープフルーツ主な産地:パラグアイ、スーダン、南アフリカ共和国主要成分:リモネン 90~99%効果:消化促進、消毒殺菌、鎮静、うっ滞除去使用上の注意点:光感作作用がある為、塗布後4~5時間は直射日光を避ける
名称:クローブ主な産地:マダガスカル主要成分:オイゲノール 70~85%、酢酸オイゲニル 10~25%、β-カリオフィレン 2~10%効果:駆虫、抗菌、抗ウィルス、使用上の注意点:光感作作用がある為、塗布後4~5時間は直射日光を避ける
名称:サイプレス主な産地:モロッコ、フランス主要成分:α-ピネン 40~55%、セドロール 2~10%効果:うっ滞除去、鎮咳、ホルモン調整、使用上の注意点:妊娠初期には使用を控える
名称:ジュニパー主な産地:スロベニア、フランス主要成分:α-ピネン 30~80%、サビネン 5~35%、リモネン 5~10%効果:うっ滞除去、利尿、解毒、抗炎症、使用上の注意点:妊娠初期、乳幼児、腎疾患のある方には使用を控える
名称:ゼラニウム主な産地:マダガスカル、フランス主要成分:シトロネオール 40%、ゲラニオール 20%、リナロール 10%効果:鎮静、抗菌、ホルモン、収斂、強壮使用上の注意点:妊娠初期には使用を控える
名称:ティートリー主な産地:オーストラリア主要成分:テルピネン-4-ol 35~45%、y-テルピネン 15~20%、パラシメン、1,8-シネオール 5%以下効果:抗菌、抗ウィルス、免疫促進、抗炎症使用上の注意点:特になし
名称:バジル主な産地:ベトナム、インド主要成分:チャビコールメチルエーテル 80~90%、リナロール 2~10%効果:抗菌、抗ウィルス、鎮痙攣、抗炎症、消化促進(便秘、下痢)使用上の注意点:妊娠中は芳香浴のみ
名称:プチグレン主な産地:イタリア、パラグアイ主要成分:酢酸リナリル 40~55%、リナロール 20~30%、α-テルピオネール2~10%効果:鎮痙攣、神経バランス回復、鎮静、抗炎症使用上の注意点:特になし
名称:フランキンセンス主な産地:ソマリア、スペイン主要成分:α-ピネン 25~40%、β-ピネン 10%以下、リモネン2~15%効果:免疫促進、抗炎症、抗カタル、抗うつ、瘢痕形成使用上の注意点:特になし
名称:ペパーミント主な産地:フランス主要成分:メントール 35~50%、メントン 15~30%、1,8-シネオール 10%効果:強壮刺激(血圧上昇)、鎮痛、消化促進、抗カタル使用上の注意点:多量に使用した場合冷却作用により体温を下げる場合もあるので注意
名称:ヘリクリサム主な産地:フランス、スロベニア主要成分:α-ピネン 2~35%、酢酸ネリル 2~10%、β-ジオン 10~20%、クルクメンG 2~30%効果:鎮痙攣、鎮静、血腫抑制、血液凝固阻止使用上の注意点:乳幼児・妊産婦・授乳中の女性は控えめに使用する、てんかん患者には使用しない
名称:ベルガモット主な産地:イタリア(シチリア島)主要成分:リモネン 25~40%、酢酸リナリル 25~40%、リナロール 10~20%効果:鎮痙攣、神経バランス回復使用上の注意点:塗布後4~5時間は直射日光をあてないようにする
不眠症や精神障害に特に効果:がある
名称:ユーカリ・グロブルス主な産地:インド、中国、ポルトガル主要成分:1,8-シネオール 80~90%、α-ピネン 2~10%効果:抗菌、抗ウィルス用、去痰、抗カタル使用上の注意点:乳幼児、妊婦には使用を控える
名称:ユーカリ・ラディアタ主な産地:オーストラリア主要成分:1,8-シネオール 60~75%、α-テルピネオール 5~10%、α-ピネン 2~5%効果:抗菌、抗ウィルス用、去痰、抗炎症使用上の注意点:乳幼児、妊婦には使用を控える
名称:ユーカリ・レモン主な産地:マダガスカル、ベトナム主要成分:シトロネラール 40%~80%、イソプレゴール 10%以下、β-シトロネロール 5~20%効果:抗炎症、鎮痛、鎮静、血圧降下使用上の注意点:特になし
名称:ラベンサラ主な産地:マダガスカル主要成分:1,8-シネオール 30~60%、α-テルピネオール 5~10%、α-ピネン 5~10%効果:抗炎症、去痰、抗カタル、免疫刺激、抗菌、神経強壮使用上の注意点:特になし
名称:ラベンダー主な産地:フランス主要成分:酢酸リナリル 40~50%、リナロール 30~45%効果:鎮静、鎮痛、血圧降下、瘢痕形成、組織再生、抗菌、抗ウィルス使用上の注意点:特になし
名称:レモン主な産地:イタリア、スペイン主要成分:リモネン 60~75%、β-ピネン 15%以下効果:末梢血管拡張、消化促進、血圧降下、うっ滞除去使用上の注意点:塗布後4~5時間は直射日光をあてないようにする
名称:ローズウッド主な産地:ブラジル主要成分:α-テルピネオール 2~5%、リナロール 80~99%効果:組織再生、抗菌、抗ウィルス、抗真菌、免疫調整、神経教示、駆虫使用上の注意点:特になし
名称:ローズオットー主な産地:ブルガリア、トルコ主要成分:シトロネロール 20~60%、ゲラニオール 5~15%、ネロール 2~10%効果:皮膚弾力回復、収斂、皮膚組織強壮使用上の注意点:妊娠中は極力控える
名称:ローズマリー・カンファー主な産地:フランス、ポルトガル主要成分:α-ピネン 10~25%、カンフェン 2~15%、1,8-シネオール 15~35%、カンファー 15~25%効果:胆汁分泌促進、神経・筋肉刺激使用上の注意点:てんかんの方には使用を控える

ナースのためのアロマセラピー
日本アロマセラピー学会看護研究会

アロマオイルとバスタオル

医療現場で使用する精油の基準は?

医療現場で使用する精油の基準は、日本アロマテラピー学会では以下のように精油の基準を定めています。
➀ 使用されている原料ハーブの原産国が明記されている
➁ 使用されている原料ハーブの部分が明記されている
➂ 蒸留方法が明記されている
➃ 使用されている原料ハーブの収穫年月や蒸留された年月が明記されている

アロマテラピーの施術に関連する保険について

医療従事者がアロマテラピーを実施する場合、それぞれの国家資格のもとに1つの方法としてアロマテラピーを実施します。アロマテラピーを施術した際の医療過誤による損害賠償請求に備えるための保険はありません。

一般の傷害保険のほかに利用できるものとして、看護職賠償責任保険制度というものがあります。

看護職賠償責任保険制度

看護職賠償責任保険制度は、2001年11月1日より発足した看護職専用の制度です。年間2,800円程かかります。日本看護協会の会員である事が加入条件に挙げられ、加入は個人の任意のものとなります。

実際の保険の内容ですが、看護職者の行う業務によって他人の身体や財物の損害を与えたり、人格権を侵害するなど法律上負担をしなければならない損害賠償責任を補償するものとなります。

保険金が支払われない2ケース

・保健師助産師看護師法に違反して行った看護業務に起因する賠償責任
ここでいう看護業務とは、保健師助産師看護師法(第5条)に定める、「傷病若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助」を指し、アロマテラピーはこれに該当しません。
・美容を唯一の目的とする医療行為などに関連する看護業務に起因する賠償責任

アロマテラピーの施術に関連する保険についてのまとめ

アロマテラピーの施術中の事故や、医療過誤による損害賠償請求に備える為の保険はありませんので、アロマテラピーを看護に取り入れる際は看護業務の範囲内でアロマテラピーを実施することを医師に相談し、許可を得たうえで患者様には同意書のようなものを書いていただき、納得されたうえでの実施が一番望ましいです。

妊娠・出産時のアロマテラピー

アロマテラピーを実施するうえで精油の安全性は重要な事の1つです。その中でも特に妊婦に使用しても安全な精油を見極めることは特殊な問題で、不明な点が多く残っているのが現状です。

精油が使えるか使えないか決める主な要因は、
・発がん性
・経皮・経口毒性
・光毒性
・一般的薬理作用

アロマテラピーのトラブル別の予防知識

皮膚毒性

皮膚に刺激を受けるケースは、適用量と直接的な関係があるようです。原液に接触した事で起きる化学火傷や経口投与した際のアレルギーなどが考えられます。
皮膚トラブルを避けるため1つの精油を3週間以上使用し続けない事や、原液の直接塗布、飲用しないなどの基本的なルールを守る事で避けれるケースが多いようです。フェノールエーテル類を多く含む精油では皮膚を荒らすこともあるので、濃度を1~2%以内にするなどしてトラブルを避けましょう。

経皮・経口毒性

フランスやヨーロッパでは医療資格を持つアロマテラピストにより、補助的に精油の経口投与が行われています。ですが、英国のクリニカル・アロマテラピスト、よほどの経験を積んでない限り経口投与は指示しません。では日本の場合はどうかと言いますと、日本においても基本的には経口投与をしません。

光毒性

妊婦のケア時、妊娠中メラニン細胞刺激ホルモンのレベルが全身で上がっており、精油の作用、効果次第では皮膚の光に対する過敏症を誘発する恐れがあります。
適用濃度を2%未満に抑える事で光毒性は問題ありませんが、ベルガモットやレモンでマッサージを受けた女性には4~5時間程直射日光に皮膚を当てないようアドバイスをしてあげるとよいです。

乳幼児のアロマテラピー

子供に対するアロマテラピーは、大人と同様に効果があるものの、子供は大人より意思表示やコミュニケーションがうまくできず、意思の疎通が難しいのが懸念点に挙げられます。また、子供は好奇心旺盛の為、大人では考えられないトラブルを巻き起こしたりします。
子供に対してのアロマテラピー施術中、施術後は必ず目を離さないようにしてあげるよう注意が必要です。

実際にあるトラブル

・精油をそのまま飲んでしまう
・皮膚がデリケートな為、すぐかぶれてしまう
・施術後に転倒等してしまう
しかし、これらのトラブルは安全に注意していただく事で大半が防げます。

乳幼児に安全な精油と、避けた方がよい精油

乳幼児に安全な精油と、避けた方がよい精油を以下一覧にまとめました。

安心できる精油
・ラベンダー、ゼラニウム、カモミール・ローマン、カモミール・ジャーマン、グレープフルーツ、オレンジ・スウィート、レモン、クラリセージ、サイプレス、ティートリー、ユーカリ、ローズウッド、フランキンセンス、イランイラン、ローズ、ネロリ
気をつけたい精油
・ペパーミント、ベルガモット、ローズマリー、カンファー、レモングラス
避けた方がよい精油
・フェンネル、カンファー、セージ、ワームウッド、ヒソップ、タラゴン、ウィンターグリーン、クローブ、バジル

高齢者のアロマテラピー

高齢者は老化により、代謝機能の低下・身体機能の低下などが顕著にあらわれてきます。代謝が低下している為症状緩和に時間がかかる傾向にあります。
また、高齢者のほとんどの方が疾患や老化からくる身体の不調を抱えており、ADL(日常生活動作)の低下をきたしている方もいます。
そのためアロマテラピーを行うとなると、注意する点が多いです。
一般のアロマテラピーの禁忌に該当することが多い高齢者ですので安全には十分に注意し、確認したうえでアロマテラピーを行う事が望ましいです。
認知症の方や、ADLの低下がみられる高齢者の方へのアロマテラピーは、本人だけでなく家族のお話も十分にヒアリングし、家族の希望に添ったアロマテラピーを用いるとよいです。

高齢者にアロマテラピーを行う前の確認事

高齢者にアロマテラピーを行う前段階として以下の事を確認しましょう。
・体調
・皮膚の状態
・アレルギー
・病状、疾病
・痴呆の有無
・ADLの程度
・高齢者を取り巻くご家族の理解や協力度
・高齢者ご自身の精油の管理、セルフケアの可否

高齢者に使用しやすい精油

高齢者の方に比較的使用しやすい精油は、ラベンダー、レモン、オレンジ・スウィート、ティートリー、ローズウッド等が挙げられます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
アロマテラピーを行うにあたり、年齢や容態等により選択する精油が異なります。また、乳幼児や高齢者などの意思があまりはっきりとしない方へのアロマテラピーは、事前に本人やご家族にヒアリングをしてから安全に注意をし、行ってください。
この記事のまとめは以下の書籍を参考にさせていただいてます。

ナースのためのアロマセラピー
日本アロマセラピー学会看護研究会